結構なお点前で (Page 4)

帯はそこまでではなかったものの、肌襦袢も単衣もベタベタで帰れるような感じではなかった。そもそもまだ腰から下の感覚が遠い。立って歩けるまでにはもう少し時間がかかるだろう。

「肌襦袢も単衣も母屋にあるので、お湯と一緒に持ってきます」

そう気まずそうに眼をそらし、凪先生は母屋に行ってしまった。出るときにかけてくれた薄紫の着流しにくるまる。少し金木犀の匂いがした。

少しして着替え一式とお湯とタオルを持ってきた凪先生が帰って来た。

「失礼します」

そう言って、丁寧に体を清めてくれた。

「無理をさせましたね。いや、最初は本当にちょっとしたお仕置きで言ってみただけですが、碧さんがあんまり素直な反応をされるので。少し暴走しました。反省してます…」

あれで少して。本気で反省しているらしく、やや気落ちしているような気もする。

「そんな、嫌じゃなかったですよ」

「そういうところです。あんまり隙を見せてはいけませんよ」

「先生の前でだけ隙だらけでいることにします」

「本当にそういうところです」

用意してくれた単衣の着付けもしてくれた。着てきた単衣は抹茶を誤って零したからクリーニングに出したとでも言っておこう。帰りは車で家まで送ってくれた。

「また来週、碧さん」

家の前で掠めるようなキスをされた時は、見られたらどうしようとドキドキした。

*****

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、碧。お茶のお稽古に行き出してから、姿勢も綺麗になったわね。所作にも品というか色っぽさが出てきたんじゃないかしら」

「…そうかな」

確かに、お茶自体も上達した。でも所作云々は多分、お仕置きからご褒美に変わった行為だと思う。
茶室では相変わらず、凪先生が柔和な微笑で迎えてくれる。

「大変良くできました。では、ご褒美の時間です」

Fin.

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