逃れられない指
通勤のために乗った満員電車で、密集する人に押し潰されながらもなんとか耐えていた主人公。ようやく会社の最寄り駅まで残り三駅となった時、荷物を持った両手を壁に押し付けられ、身動きが取れなくなってしまう。その上、真後ろに立ったサラリーマンの両手が彼女の腰をゆっくりと掌で包んでくる。
会社まであと三駅。満員の快速電車はこのままノンストップで会社まで運んでくれる。今日は少し早めに出たから寄り道をしてのんびり会社に向かっても十分間に合う。だからぎゅうぎゅうの車内でもなんとか耐えられる気がした。
十分以上この体勢のままなのは苦しいけど、これを耐えたらお気に入りのカフェにでも寄って癒されに行こう。
そう、心の中で溜息をついた時だった。
――――今、何か動いた?
ざわ、と背筋が粟立つ。鞄を抱き締めた両手は壁に押し付けられて身動きが取れない。混雑解消のためにある座席のないスペースの角に追いやられて、人波に圧し潰されて後ろに誰がいるかなんて意識していられなかった。それ、が動いてようやく気付く。
おしりを押すのは人の掌。生温かい体温がスカート越しに伝わって来た。指先がすす、す…と動いて、肌を擽るように揺れる。おしりの付け根、太腿との間。際どい部分に誰かの中指が当たっている。あと数センチ動けば割れ目のあたりを触れられてしまう。
逃げ出そうにも左には手すり、正面と右側にあるのは壁だけ。振り向こうにも踏ん張って立っているのが精一杯で、身動きは取れそうにない。身を捩っても壁に阻まれて、一歩ズレることさえ許されない。膝を動かしたら寧ろおしりを突き出すことになってしまって、慌てて力をいれて体勢を戻した。肌にゆっくりと汗が滲む。
手が脚と脚の間に割り込んでくる。手の平が敏感な部分を覆って、ちょうど一番弱いところに中指の腹が触れた。左右に動く指から逃れようと必死でつま先を伸ばした。だけど押し付けるような指の動きがより繊細になって鋭い刺激に変わるだけで、体の奥から這い上がるものは止まらない。
下着越しに一番触れて欲しくない穴を探り当てられて、何度かそこを指で突かれる。肩が強張って息が浅くなる。そんな私を見て楽しんでいるのか、耳元で楽しそうな笑い声がした。私の怯える声も後ろにいる人の笑い声も電車の動く音に掻き消される。
暑くなってきた車内でうんざりするような満員電車。誰も私たちのことなんて気にしない。隣にいる人でさえ、イヤホンをつけてスマホの画面に夢中だ。視線を送っただけじゃ気付いてはくれない。
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