これも全部熱のせい (Page 3)

私は彰斗が買ってきてくれたゼリーを食べて、薬を飲んだ。

いつもだったら2人でこれでもかというくらい喋るのに、今日はそんな元気はなかった。

静かな空間で一緒に居ることに慣れていないため、なんだか違和感がある。

「とりあえずお前は1回寝な。俺はお前が起きるまで心配だからここに居るから」

「え…でも…」

「いいから。どうせ家に居ても1人でゆっくりスマホ見て過ごしてただろうし」

「わ、わかった…。飲み物とか勝手に冷蔵庫のもの飲んでいいし、お菓子とかも食べてていいからね…?」

「おー、ありがとうな」

私の部屋は1Kのため、居間にベッドが置いてある。

つまり彰斗に寝顔を晒さなくてはならないのだ。

恥ずかしいけどそんなことを気にしている場合ではない…。

とりあえず私はベッドに横になる。

彰斗がこちらに背を向けて、ベッドに寄りかかる形で座っている。

私は眠くなるまで彰斗のその後ろ姿を見つめていた。

2人の間に会話はなくても、彰斗が近くに居てくれているだけで安心してしまう。

*****

そこは真っ暗で走っても走っても出口が見えてこない。

遠くから彰斗の声が聞こえてくるのに…。

彰斗の姿を見つけることも出来ない。

ここはどこ?

私が暗闇を進めば進むほど彰斗の声は遠ざかっていく。

「彰斗ッ…!待って…!置いて行かないで!」

「おい!千咲!」

ハッと目を覚ますと、そこはいつもと変わらない自分の部屋だった。

どうやら私は熱のせいで嫌な夢を見ていたようだ。

そういえば小さい時に高熱出した時も似たような夢を見た記憶がある。

「千咲?大丈夫?」

私がうなされていたからか、彰斗が心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

意識がハッキリとしてくる中で、左手がじんわりと温かい何かに包まれていることに気が付いた。

その温かさは彰斗の体温によるものだった。

彰斗が私の左手を握っている…。

「ごめん…。なんだか嫌な夢見ちゃって…。夢でよかった…。」

「どんな夢?」

「なんか真っ暗で…。彰斗の声が聞こえるのに見えなくて…。その真っ暗な道を進むほど彰斗の声が遠ざかっていくの…」

「俺はここにいるよ」

「彰斗…。その、手が…」

「あ!ごめん。お前が余りにも苦しそうだから…今、離すよ」

「待って!離さないで…」

「なんか今日はいつもの千咲らしくないね。熱のせい?」

「かも…」

「そんな弱ってると可愛くてしょうがないんだけど」

そう言うと彰斗は、私の左頬に軽くキスをしてきた。

私は訳が分からず固まってしまう。

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