月とすっぽん

・作

職場でデキる女と呼ばれて、近寄りがたい存在とされている私。そんな私を慕う後輩が一人いた。根津(ねづ)君。仕事ができるわけでもなく、要領もいい方ではないが真面目で純粋な性格をしており、何事にも熱心な後輩だった。そんな彼にある日飲みに誘われた帰り道。ベロベロの彼に突然告白されて――!?

「これで大丈夫そうね」

「ありがとうございます…」

後輩は私に一つ会釈をする。私自身、仕事で困っている後輩を助けるのは当然のことだと思い、助けたはいいがなぜだか敬遠されている様子だった。

…私は嫌われているのだろうか。

皆が私を避けるような態度をとる。嫌われる覚えは無いのだが、話しかけられることはほとんどなかった。

なんとなく、近づきがたい存在なのだろう。私は。

そんな私に、今日ものこのこと仕事を教わりに来る後輩がいた。

「せんぱーい!ここ、教えて下さい!」

この子は根津。私の部署の後輩で、いつもドジを踏むことが多くドジネズミ、だなんてかわいそうなあだ名をつけられている。

「えーと…こうすれば楽よ」

「そんな方法が!」

ぱぁ、と微笑みありがとうございます!とぺこぺこお辞儀をして彼は今日も去っていく。

そんなやり取りの繰り返しで、私は実質彼の教育係みたいになっていた。

まぁ、慕われるのはうれしいんだけど。

そんなある日、彼から初めて食事に誘われた。

後輩から飲みに行きたい、と誘われたことなんてなかったのでつい応じてしまった。

「先輩だし、お金は私が出すわ」

私がそういうと、彼は少し嫌がったが根負けしたのか代わりに店を見つける!というので任せることにした。

*****

「ふふ、こう見えて俺、先輩の好みわかってるんで」

店の場所を案内してもらうと、隠れ家的な居酒屋に着いた。

彼の店選びは正しかった。別に私はお高い女でも何でもない。

ただの酒好きの独身のオバサンだ。

「っはーっ!」

私がビールをぐびっ、ぐびっと大きな音を立てて飲み干すと、根津は安心した表情を浮かべた。

居酒屋は客が少ないうえに、個室になっておりかなり好みの雰囲気だった。

おでんがおいしい、というのもいい。

「あーよかった。飲み会でおしゃれなレストランに行ったとき、居心地悪そうだったから」

根津はよく見ている子だ。私の細かいところまでよく見ているなぁ、と感心する。

そこで私と彼はいろいろな話をした。

いつも後輩とは仕事以外で話さないので、とても新鮮な気持ちで楽しい時を過ごせた。

結局、閉店まで飲んでしまった。

*****

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