溶け合うのは、キャンバスの外で (Page 2)

用意した取材内容を聞き終えた頃には、先生は5本目の煙草を灰皿に押し付けていた。

「もう、質問は以上かな?」

「はい!すみません、お時間いただいてしまって」

わたしは床にもたれた鞄に急いでバインダーを押しこみ、スカートの裾を整え立ち上がった。

彼は、ソファに気怠そうに寄りかかりながらも帰る気配を察したのか、視線をこちらに向ける。

灰皿から消えきっていない煙草の煙が立ち上がって、重く、甘い匂いがした。

「お時間いただいてしまってって…君、いつもこの後何をしているか、わかって言っている?」

わたしが好きな、深い黒の目と視線が合ってしまった。鞄を持つ手が、意に反して勝手に緩んでしまうのは、なぜだろう。

先生は、そのまま体をソファから起こしてテーブルに肘をつき、手を組んで息をフッと漏らした。

「早く、その鞄を置いて、いつもの通り脱いで?」

声色が変わったのが合図。

その言葉が、頭の中で何度もリフレインする。

わたしは、言われた通りに鞄をそっと床に置き、恐る恐るシャツのボタンに手をかけた。

ボタンを外す指の1本1本、スカートを捲りあげるこの一動までも、先生が逃さず見ているような気持ちになって、それだけで胸が締め付けられる。

「そのまま、ここに座って」

わたしが下着だけの姿になると、先生は私から目を逸らさずに自分の膝上を手でポンポンと叩いて指示をした。

コンクリートの床が、ストッキングを脱いだ素足には酷く冷たく感じる。

恐る恐る、わたしは先生に向かい合わせになる格好で、膝に跨った。

「僕は、現実しか見ない、と言ったよね」

「…はい」

「君は、僕にいつも欲情している」

先生はそう言って、少し意地悪そうな笑みを浮かべながら、私の首筋にキスを這わせた。

びくり、と体が反応してソファに布擦れの音が響く。現実のわたしは、そうだ、先生にいつも欲情しているのだ。

先生の絵を一目見た瞬間から、わたしの頭の中は彼に埋め尽くされ、取材をするという話が舞い込んで来た時には、下心なしではいられなかった。

先生の描く油絵は、現実を描いているはずなのに、どの絵も、いつも孤独で泣いているのだ。

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