昼下がりのお屋敷は薄暗い
親の命令で華族の当主と結婚した圭子。仕事ばかりで家庭を顧みず仕事ばかりの夫、愛人に子供がいるからお前との間に子供をつくる気はないと言われる始末。30を目前に控え、女盛りの身体を持て余した圭子は住み込みの青年と関係をもった。屋敷の薄暗い部屋で二人は求めあう。
私の生家はいわゆる成金というやつである。維新のどさまぎで財を得た。
そんな我が家が一つだけ得られなかったものを得るがために、女学校を卒業と同時に親が結婚を決めた。
「相手は公爵だ。我が家にはもったない位の爵位を持った方だ。圭子、今まで育てた恩を返すためにしっかりあの方にお仕えし、尽くし、立派な良妻賢母となる様に」
「はい、お父様」
学校にいるとき以外はほとんど屋敷に軟禁状態。男性とは使用人であっても声をかけることは許されず、何か重いものを運んでもらう時も部屋の花瓶の水を替える程度のことですらメイドのを通す必要があった。
世間知らずに育てられた私にできることなんて、お金じゃ買えない爵位を持ってくるだけよね…と諦めていた。出しゃばらず、夫の言いなりになって、子供を産んだら母として生きる、私の人生なんてそんなもんだと。
なんなら早い方がいいだろうと卒業から一週間も経たぬうちに、ろくに顔も知らない二回り以上歳の離れた公爵と祝言。慣れない寝台で迎えた初夜、あんまりな言葉に絶句した。
「外に女がいる。その女の子供を養子にするから、子供をつくる気はない」
「そう、ですか…」
失うものばかりの苦痛な初夜だった。
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そこからそろそろ14年。三十路を目前に控えた私に主人は興味もなくし、今熱心なのは例の養子の教育と仕事だけ。うちで引き取った時3歳だった子はよく懐いてくれたし、私も可愛がっていた。ところが小学校入学前に
「母にいつまでも甘えさせては、軟弱な男になる!」
と別邸に移された。17歳なった彼は『お母様』とは呼んでくれているが、会えるのは年に3回ぐらいだ。夫はまた新しく外に女を作ったらしく、家にもほとんど帰らなくなった。相手については若いメイドが噂していた。
「小料理屋のおかみさんで元芸妓と聞いたわ」
「元芸妓というか新造を買い上げてんですって!」
妻として夜の相手すらろくにしない私に『私というものがありながら』などという資格も言う気も起きない。
しかしながら、私は暇もお金も身体も持て余していた。そんなときに出会ったのが、住み込みの使用人である佐助だった。
「奥様、菖蒲が綺麗に咲いたので、庭師にいくつか切り花にしてもらいました」
「まあ、綺麗な菖蒲」
純粋な気遣い、真っすぐな好意。今まで周りにいないところが好ましく、気が付いたら深い仲になっていた。
とても官能的でした
じっとりとした空気感の中の艶やかさがとても官能的でよかったです。
どうか圭子さんと佐助くんが幸せになれますように。
野良猫 さん 2024年5月28日