イケメンバーテンダーは口説き上手

・作

27歳OLの栞はバリキャリ。心ない陰口をたたかれて心も荒み気味。少しリフレッシュしようとたまたま入ったバーで、バーテンダーからカシスソーダを差し出されて。甘い言葉が荒んだ心に染みてくる。閉店後の店内でイケメンバーテンダーと…

ありきたりな話だ。本当にありきたりな話。彼氏より出世しちゃって、別れてその後も順調に出世してるっていうね。私は天才肌じゃない。だからやれることは全部やった。

その結果が出世だと思ってる。
そうだというのに、後輩の女性社員からは『実は枕やってる』『重役の愛人らしい』と事実無根の噂を流されている。

誰だ、言い出したやつ。男性社員は『女捨ててる』、『可愛げがない』と噂している。
とはいえ、人当たりが良かったら『八方美人』と言われ、仕事が出来なかったら『女だからと甘えるな』と言われる世知辛い世の中だ。心も荒む。

*****

残業後、会社の最寄り駅の近くでそっと力を抜いた。

「はあ」

インスタントスープでも買って帰るかと近くのドラッグストアを探す。よくある全国チェーン店の隣に地下へと続く細い階段があった。階段の前にはOPENと書かれた看板。Barと書いてあるのを見て、偶には飲むのもいいかと思い階段を下りていく。木製のドアを開けるとシックな店内にドアベルの涼やかな音が響いた。

「いらっしゃいませ。カウンター席どうぞ」

「あ、はい」

バーテンダーがにこりと柔和な笑みを浮かべた。こういうところは初めてきた。カクテルとかあんまり詳しくないんだけれどなぁ。顔の整ったバーテンダーがスッと私の目の前にカクテルを置いた。

「バーテンダーの諏訪と申します。初来店のお客さんへのサービスカクテル、ジントニックです」

ジントニックぐらいは私も知っている、ポピュラーなカクテルだ。

「ありがとうございます。倉田栞です」

スッキリした味。疲れた心身に染みわたるようだった。すごくおいしいのに、お客が私しかいないのって。早い時間ならともかく、もう21時過ぎてるのに。

「ここは長いの?」

「あ、開店ですか?三日前からです。初日は友達とか来てくれたんですけど、こういうところはこうちょっと敷居が高いでしょう?」

それはなんとなく分かる。隠れ家的な店舗もそうだけど、Barというもの自体敷居が高い。ホテルの最上階とかなんとなくドレスコードのいる場所を想像してしまう。

「もっと気軽に楽しんで欲しいんですけどね。イメージというのはなかなか」

そういって困ったように微笑みながら、ナッツのはいった小皿をカウンターに置いた。これもサービスらしかった。

「先入観っていうのはなかなかね。私も仕事が好きで、がむしゃらにやってきて、彼氏より出世しちゃって。それが原因で別れてからも、ずっと走ってる。そしたら、いつの間にか女捨ててるなんて言われるようになっちゃった…」

諏訪さんの柔和な笑みや柔らかい物腰に、つい今まで誰にも言えずにいた胸の内を吐露していた。

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