悩める女神は悪魔に誘惑される (Page 6)
ベッドに寄りかかって、ぼんやりと天井を見上げる。親には遅くなるって連絡入れたけど、あとどれぐらいで動く気力がわくかは分からない。
あの後結局血とかそれ以外も結構あれで、シャワー借りて、クロさんが部屋着貸してくれた。ついでにコンビニで下着も調達してもらった。
その後クロさんはというとキッチンの換気扇の下で煙草吸ってる。煙草を取り出したのを見て驚いていると
「セックスした後の一服って最高。むしろその時じゃないと吸わない」
らしい。よく分からない。
何気なく天井からローテーブルへと視線を移す。無造作に置かれた学生証が目に入り、思わず目を瞠った。
「ねぇ、クロさん」
「ん?」
「あなた『あまつかくろう』さんっていうの?」
学生証の名前には漢字で天使九郎と書かれていた。天塚とかは聞いたことあるけど、この漢字表記は珍しい。それに九郎とは古風というか、九男とかなのだろうか。
「あ、学生証!だから嫌だったんだよ名前言うの。自分で悪魔とか言っといて、苗字が天使とかもうほんとやだ。ノリと勢いで次男なのに九郎とかつけられるし!」
「なんで、九郎なの?」
その素朴な疑問にさらにクロさんは嫌そうな顔をした。いや、素朴な疑問だと思うんだけれど、あれ、これ地雷か?焦り始めたところで嫌そうにクロさんが口を開いた。
「俺の親歴史好きで、九郎は源九郎義経。源義経の幼名だ…」
戦の天才源義経は弁慶と共に義務教育で習う。各地に様々な伝説がある人物だ。幼名が九郎だとは知らなかったけれど、言いにくそうにしていたのもなんとなく頷けた。
「ああ、なるほど…」
「兄貴が頼朝にあやかって朝陽なのに、俺だけ九郎、どうせなら義経にしとけよ。ガキんとき散々からかわれてこのファッションや悪魔だというのは俺のささやかな反抗の表れなのっ!」
顔を真っ赤にしてそう言われた。会った時やさっきまでの余裕そうな言葉とは違い、なんというか意外とクロさん可愛らしい人だな。
「う、うーん、でもほら、超敏感体質なのに処女懐胎の聖母マリアと同じ名前の私だって同じ感じだし。親としては清廉な女の子に育つように願いを込めてこの名前だっていうし…」
それが今日初めて会った人に処女をささげてしまうような淫乱な娘でごめんなさい…。両親への罪悪感のようなものでなぜか言ってて自分が一番傷ついた。
「可愛い名前じゃん、まりあ」
クロさんが煙草を灰皿でもみ消し、私の目の前に立つとすっと頤に手を掛けられる。
「まりあ、本当に可愛いよ」
そう言って、私の戸惑いも呼吸も甘い気持ちすらもキスで飲み込まれてしまった。
Fin.
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