悩める女神は悪魔に誘惑される
ミッション系の大学に通うまりあ。薄暗くなり始めた夕暮れに日課のお祈りをしていると、後ろから声を掛けられる。驚いて振り向くと教会に似つかわしくない黒い服の男が立っていた。無理矢理キスされたのに甘い声をあげてしまう。実はまりあには神に縋りたいぐらいの悩みがあって…
進学した大学がたまたまミッション系だった。大学の敷地内には教会があって、いつでもそこは学生向けに開放されている。日曜とクリスマスは一般にも開放されているけど、基本平日に一般の人はいない。
ミッション系といってもキリスト教徒ばかりではないし、夕方はだいたい誰もいないのもいい。私は薄暗くなり始めた教会で日課であるお祈りをする。
どうかこの呪いから一刻も早く解放されますように
十字架の前に跪き、ぎゅっと胸元のロザリオを握る。
切り取って聞くとどう聞いても中二病だが、私には神に祈るほど深刻な悩みがある。
*****
今日も今日とて教会で祈りをささげる。
「シスターじゃねぇのに、熱心だな。見習いか何か?にしては学生っぽい身なり」
急に後ろから声を掛けられ驚いて振り向くと見知らぬ青年が立っていた。白を基調とした教会で真っ黒な衣服を着た彼は浮いている。シスター服や神父の服だって黒が基調だが、なんか違う。普通に黒いシャツに黒いボトムスに黒い編み上げのショートブーツ。胸もとのアクセサリーはシルバー。どうにもこうにもチャラかった。
「ここの学生ですけど…、あなたは?」
「さあね。悪魔とか?いいね、好みストライクだ」
ぐいっと手を引かれ、体勢を崩すとともに唇が塞がれた。状況に頭が追いつかない。口をこじ開けられ、舌が入り込む。
「んっ…、あっ」
「声甘すぎ…、っ?」
舌を絡める寸前でパッと離された。どうかしたのかと悪魔(仮)の顔を見上げると、困ったように目を逸らされた。
「自分がどんな顔してるか分かってる?そんなんじゃ食ってくれって言ってるもんじゃ…」
「好きでそうなんじゃない!だから祈りをささげていたのに!神の前で汚された―!もうこの呪いは解けないんだ!」
ぼたぼたと大粒の涙が目から零れ落ちる。泣くというか号泣の私の頭を乱雑に撫でる。
「なんかわかんねぇけど、汚されたって。あーもう対処に困る」
ぐすぐすと涙が止まらない私の手を引いて彼は歩き出した。それに引きずられるように私も歩き出す。大学の敷地を出てよくあるアパートのドアの前で彼は足を止めた。
「まあ、コーヒーぐらい淹れてやる。狭いけど入んな」
ドアを開けてそう言う。うんと言いそうになってはっと気が付いた。
初対面の人の家に上がり込むってどうなんだ?
号泣後の虚脱状態から抜けつつあった私の理性が冷静さと一緒に帰ってきた。半歩後ずさると腕を掴まれて、強引に玄関に押し込まれた。ドアをがっちりガードされ、靴を脱いで上がるしか選択肢がなかったので、半ば仕方なく上がらせてもらうことになった。
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