生まれる前から決まってた許嫁はインキュバスでした
過保護な父親に男手一つでそだてられたりら。しかし20歳の誕生日にハート型の痣が胸に浮かび、その夜父が許嫁だと連れてきたのはインキュバス。いや、許嫁とか聞いてないし。かといって約束を反故にできず、魔界に行くことに。意外に優しい?悪魔との初体験
物心ついたころから母がいなかった。そのことに不満があったわけじゃないが、疑問ではあったので父に母のことを聞いたことがある。
「私のお母さんってどんな人だったの?」
「美人、絶世の美女。金髪で緩くウェーブした髪で、どこか挑むような目つきをしていたよ。パパはその魅力にすっかりメロメロになって何回も何回もプロポーズしたんだ。天使の顔した悪魔だった」
子供心に変な話だなと思っていた。それ以上のことはどう聞いてもはぐらかされた。何かあったら心配といって、中学も高校も良妻賢母を育てる系の女子校で育った。大学への進学も考えたけど、父に家で仕事を手伝って欲しいと言われ、進学はしなかった。
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そして、20歳の誕生日を迎えた朝、起きたら胸にハート型のあざのようなものが浮き上がっていた。何か悪い病気ではないかと慌てて父に言ったところ、
「ママもそうだったよ。あ、そうそう今日お客様が来るからおめかしするんだよ」
お客様?父の仕事の方とか?もしかして見合い…?とか思ったが、手持ちの中でもいいワンピースを着てお化粧もちゃんとした。その日いつもより早めに帰ってきた父の後ろから現れたのは絶世の美青年だった。
「こちら、りらが生まれる前からの許嫁」
「初めまして、りら。許嫁でインキュバスの宵闇だ。20年この時を待っていた」
いや、絶世の美女で天使の顔した悪魔だったとは言ってた。でも、母がサキュバスだなんて一言も言わなかったじゃないか。
悪魔の花嫁には処女しかなれないから、男性を遠ざけて過保護に育てたとか。今まで一回も言わなかったじゃないか。
この歳まで父が男手ひとつで育ててくれたのは感謝している。けれど、今日いきなりインキュバスを許嫁だと連れてきて、魔界へ送り出すとは一体どういう了見なんだろうか。
「人間界とさほど変わらない。朝も昼も夜もある。ないのは四季ぐらいか?あとは月が赤い」
「そう…」
フォローにしては微妙な話に短く返事を返す。さすがに悪魔との約束を反故にするのはタブーに触れるというので、私は宵について魔界に行くことになった。これからこの初対面の人と結婚とか夫婦になるとか全然想像できない。
「いきなり許嫁とか結婚とか訳が分からないだろうが、それでも20年待っていたのだから。末永くよろしく頼む」
私を見つめる瞳が甘く溶ける。どう答えればいいかわからず、少しだけ頷いた。
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