セフレと最後の夜

・作

弱みを握られ、一夜の過ちをすることに。気丈に振る舞うものの快楽に打ち負け何度も果てる。相手を憎たらしいと思っていたが、ふと見せた悲しそうな笑みに胸を締め付けられ…二度とこんなことあってはならないのに、忘れられなくなってしまう一つのお話。

茶色く、重々しい雰囲気の扉が廊下にずらりと並んでいた。

仄暗い照明は、まるでこれから起こることをただ後方から見守っているようだ。

寧々子は一度唾を飲み込むと震える手でチャイムを押した。

しばらくすると扉の向こうからガタガタという音が聞こえる。

ガチャリ、と。

はっきりとした解錠の音に背筋が伸びる。

扉がゆっくりと開き、そこから顔を出したのは憎き海斗だった。

「ああ!寧々子ちゃん!早かったね、びっくりしたよ」

柔和な笑みを浮かべる海斗に眉を顰める。

よくもまあ堂々とそんな笑顔が作れたものだ。

寧々子は緊張した面持ちだが、なるべく気丈に振る舞うようにゆっくりと口を開いた。

「…ちょっと!」

「ん?」

「本当に、動画消してくれるのよね!」

「あー、うん消す消す。ちゃんと寧々子ちゃんがいうこと聞いてくれたらね」

そう言うと、海斗は迎入れるように扉を開いた。

寧々子の踵がゆっくりと持ち上がる。

一歩踏み込めばもう彼の領分だ。

微笑む海斗を睨みつけながら部屋へと入る。

背後で、パタン、と扉の閉まる音がした。

*****

「んっ…ぁっ…は…」

艶かしく唾液の絡む音が響く。

舌と舌が絡み合いお互いの息が混ざる。

呼吸に合わせて唇を離すも無理矢理頭を押さえつけられ口内を蹂躙される。

舌で追い返せばそれもいいと言わんばかりに絡み取られてしまう。

舌先が喉の奥に触れ、たまらず嗚咽するも口を離してもらえず妙な吐息だけが漏れた。

やっとのことで解放された口は勢いよく咳き込み、涙目になりながらも寧々子は相手を睨みつけた。

「…悪趣味」

「だって寧々子ちゃんが可愛いから」

余裕そうに笑う海斗に苛立つ。

この男は寧々子がキスを嫌がるのを分かった上でしているのだ。

憎たらしいったらありゃしない。

海斗の手が胸に置かれる。

本当なら今にでも手を振り払って逃げ出したい。

なんなら大暴れしてやりたい。

しかし、それは寧々子にはできないのだ。

なぜなら…

「つれないなぁ。前は自分からノリノリで脱いでくれたのに」

「昔の話はしないで。あのときはお互い都合がいい相手が欲しかっただけじゃない。動画さえなければアンタとなんか二度と会ってなかったわよ」

そう、寧々子は今、弱みを握られていた。

現在寧々子はお付き合いしている男性がいる。

ただ、以前は裏垢でエロ動画をあげ、フォロワーと直接会っては行為をするような遊び人だった。

経験人数は二桁を超えており、体の相性がいい人とは何度も逢瀬を交わしていた。

海斗もその一人で、恋人ができるまではお互い都合が合うと日が昇るまで貪り合っていた。

それがいけなかったのだろう。

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