海の家でのバイトでひと夏の恋

・作

大学の夏休みを利用して、海水浴場の海の家の短期バイトするひなた。忙しい中ひなたは同じく短期バイトに来ていた2歳上の航が気になっていて…。告白できないままいたずらに日々が過ぎて行く。ところが最終日の前日に転機が。ひなたのひと夏の恋の行方は?

長い大学の夏休みが来た。去年までは許可が下りなかった、海の家のバイト。20歳も超えたことだしと今年やっと両親からの許可が下りた。電車で一本だが、さすがに夏の最中片道2時間はきつい。

期間は海水浴場が混む8月10日から2週間。昼は海の家で接客、朝晩の食事、昼の賄いあり。バイト期間中は店主が経営する民宿での宿泊。3人1部屋。時給が他より良かった。
思ったより海の家というのは多忙で

「いらっしゃいませ、空いてる席どうぞー」

「そこのねえちゃん、注文お願い!」

「はい!」

激混みの海水浴場。昼間はフル回転。次々とお客さんが来る。注文とって、焼きそばとか運んで、会計もつつ、慌ただしく日々が過ぎていく。
初日は民宿で同室の人と気が合わなかったらどうしようと思ったけど、杞憂だった。私と同じく今年初めての美琴ちゃんと一つ上で3回目という玲華さん。二人とも明るくて気さくで、コスメや日焼け止めを貸したり借りたりとなかなか楽しく過ごしている。

*****

民宿での夜、他愛ない話が海辺で見かけたイケメンの話になった。

「声掛けてくるナンパがチャラそうなクズばっかでさぁ。私、腹筋シックスパックのゴリマッチョしか興味ないのよねー。顔の良さは大前提ね」

「想像するだけで、ゴージャスそうなカップルですね~」

玲華さんのきっぱりした好みの宣言に美琴ちゃんがほのぼのと返事する。

「わたしは、どっちかというと線の細い人懐こい子が好きです。ひなたちゃんはどんな子が好き?気になった人とかー」

美琴ちゃんが私に話を振る。どんな子が好きか…。気になった人の言葉にとある人の面影が脳裏をよぎる。

「うーん、チャラ男とバカとタバコ吸う男はないな。気になった人というか、気になってる人というか…」

「え、いる感じ?お姉さんに話してごらん!」

玲華さんがいたずらに笑う。存在からにじみ出る姉御の風格。美琴ちゃんは何も言わないがワクワクした顔でこっちを見る。二人からの圧に負けて、小さな声で名前を言う。

「調理担当の、三崎さん…」

「あー、あの愛想悪くて調理担当になった。私の一個上だっけ?名前と歳しか言わなかったよね」

「ちょっと何考えてるか分からないところありますけど、優しいですよね。重いものとか運んでくれるし。かき氷の氷重いから、助かりますー」

2日ほど前賄いを偶然一緒に食べた時『人の前で話すのは緊張して…』と言っていた。打ち解けてみれば、意外ととっつきやすくて。もっと話したくなった、知りたくなった。気になってるというか、もうとっくに恋なのかもしれない。

「ホンット、海の家に理想のゴリマッチョ来ないかしらー。アルバイトの子に顔が好みのゴリマッチョいないのよ」

「線の細い子は、海なんて来ないのですー」

そこで話題が変わり全員がそのまま寝落ち。海の家はハードで深夜までおしゃべりできないのが難点だ。

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