優しい初彼氏に初めてを渡す話

・作

憧れの先輩と交際することができ、今回初めてのお家デート。緊張しながらも、恋人らしい展開への期待に胸が高鳴る。先輩の手が触れ、熱が、吐息が、想いが、伝わる。ひとつづつ解放されていく自身の、くらくらするほど甘い初体験。

ベッドにクローゼット、机とテレビ。

床にはベージュのカーペットが引かれており、その部屋には清潔感があった。

「てきとーなとこ座ってていいよ」

「は、はい!」

上擦った声をあげた亜里沙はいわれるがままに床に腰をおろした。

緊張のあまり身をこわばらせていると、頭上からクスクスと笑い声が聞こえた。

「そんな緊張しなくて平気だよ、なにもしないから」

そういって笑うのは亜里沙の恋人、武也だ。

武也との出会いはバイト先だった。

亜里沙よりも一年先に勤めており、年齢も五つ上だった。

恋に落ちたのは亜里沙が先。

初めての恋にてんやわんやであったが、それでも拙いアタックの元、憧れの先輩と付き合うことができたのだった。

武也がお茶をコップに注ぐと丸机を引っ張り出し置いた。

「い、いただきます…」

置かれたお茶を両手で持ちながらそっと喉を潤す。

緊張しなくていいとは、なんと難しいことか。

亜里沙にとって初めての彼氏であり、初めての異性の家なのだ。

なにもしないといわれても、粗相がないようにと緊張してしまう。

「平気?ちょっと顔色悪いけど…」

心配そうな武也の声にぶんぶんと首を横に振る。

「そんな、緊張してないです!本当です!」

食い気味な亜里沙の態度に武也は目を見開くが、すぐさまクスクスと笑い、

「亜里沙ちゃんは面白いなぁ」

と、言ったのだった。

*****

「しゃおらぁ!」

「うお…本当に強いね亜里沙ちゃん」

亜里沙の野太い声が部屋に響く。

先ほどの緊張はどこへやら。

今はwinnerの文字が書かれたテレビ画面を前に、亜里沙はガッツポーズをしている。

「高校のときはゲーム部部長だってやってたんですからね!この名は伊達じゃないですよ!」

食い気味に答えてから一時間後。

あまりに緊張している亜里沙を落ち着かせようと武也は自宅にあるゲームを取り出した。

初めこそ緊張でお互い接戦だったものの、いつのまにか亜里沙の圧勝が続いている。

亜里沙は満足気にベッドに寄りかかり、注ぎ足されている麦茶に口をつけた。

「いやー本当に強いね」

そういって武也もベッドに寄りかかる。

と、同時にふと手と手が触れ合った。

緊張が再び体を硬直させ、反射的に手を離してしまう。

カラン、と、中の氷が当たる音がした。

「怖い?」

武也は悲しむ様子もなく、むしろもう一度手に触れた。

そして亜里沙が嫌がらないのを見ると触れ合っていた手を絡ませる。

体温が急激に上がり心臓が耳にあるかのようにうるさい。

視線が合うと同時に亜里沙は急いで目を逸らした。

「いえ…緊張は…してます」

先ほどとは打って変わって縮こまる亜里沙に、武也は微笑みと共に手を解こうとする。

しかし。

「でも…嫌じゃ、ないです…」

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