元カレの誘いに、流され愛され恋焦がれ
酒に酔った元カレが家に押し入ってきた。渋々深夜ドラマを見ながら飲み直していると、そのまま床に押し倒され、熱っぽい視線に行為を了承してしまう。気持ちいいところも好きなところも全部知られていて…。こんなに愛されるとは聞いてない!
家のチャイムが来客を知らせた。
あまりの急な出来事に玄関ではなく時計に目を向ける。円形の置き時計はもうすぐ二十三時を回り、流れるように窓を見れば当たり前だが夜も更けていた。
綾子はこんな時間に誰が何の用で、と考えていると再びチャイムが鳴った。
知り合いかもしれない可能性に立ち上がる。
とはいえ怖いものは怖い。こんな時間になんの連絡も訪れるだなんて非常識にもほどがある。
不審者だった場合を考え、なるべく音を立てない様に、いつでも居留守に切り替えられるように、モニターを覗き──
「げっ!」
思わず出た声に慌てて口を塞ぐ。
けれどもドアの向こうの人物に届いたらしく、今度はチャイムではなくドアを直接叩き始めた。
「なー! 綾子いんだろー!」
「いません」
「いんじゃん」
「いません!」
ドンドンと無遠慮に叩かれ続けては近所迷惑になる。
開けたくない思いとせめぎ合いながらも、綾子は向こうにいる男にぶつけてやる勢いで扉を開けた。
「あっぶね!」という声と共に姿を現したのは、あいも変わらず緩いパーカーと緩いジーンズを合わせているゆるゆる男、もとい元カレの修也がいた。
「…なに」
「えー?会いたくなっちゃだめ?」
「…あんた飲み会の帰りでしょ。お酒の匂いぷんぷんすんだけど」
「あ、ばれた?」
へにゃらとした笑い方は相変わらずで、懐かしさと共に愛おしさも湧き上がる。
別れたとはいえ、愛し合った日々は嘘ではない。離れていた分、愛おしい日々が思い出される。
「おじゃましまーす」
「えっ、あ、ちょっと!」
綾子の隙を見て家に押し入った修也は慣れたように進んでいく。
リビングから「ねー、何か飲むものない?喉乾いちゃった」やら「このドラマ知ってる!面白いよねぇ」やら「こんな時間にポテチ?いいセンスしてる〜」やら。
沸々と湧き上がる感情に先ほどまで愛おしさは消滅し、呑気に部屋を物色している修也に、一言。
「出てけぇぇぇえええ!!」
*****
「それでね〜先輩が〜」
結局。
修也は出ていかず、だらだらと深夜ドラマを見ながらチューハイを飲み彼の愚痴を聞いている。
この際、追い出すことは考えない。
どうせ終電がないやら言われて居座るのは目に見えているのだから、あとは明日に響かぬよう眠ってしまおう。
「ね〜聞いてる〜?」
「はいはい、聞いてる聞いてる」
修也の言葉を受け流しながらそろそろ寝室に移動しようと立ちあがろうとした時。
不意にチューハイを持っていた手に触れられる。
驚いて修也を見ると熱っぽい視線が綾子の心臓を絡めた。
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