三十路間近な私が年下バーテンダーに心揺れ動く (Page 6)
名前も知らない男の人に抱かれてこんなに幸せを感じることが出来るなんて、今まで知る由もなかった。人肌に触れて欲求を受け止める。ただの行為ではなく、愛のあるセックスだった。事実としてここに愛なんて無いのだけれど。
次第に彼の腰の動きが増して部屋にはベッドの軋む音と、互いの吐息で溢れる。時折、彼は私の唇や頬にキスを落とし、愛おしそうな顔で私を見つめる。その目の奥にはゆらりと熱が篭っていて、吸い込まれそうになる。
「はぁ…ん…夏希…」
「ん…っはっ、あっ、んっ…」
「気持ちいい?」
「うん…っ、あっ、はっん…」
「俺もう限界かも」
「いいよ…、んっ」
彼が上半身をあげて私の腰を掴むとより一層の激しく腰をうちつけ始め、肉がぶつかる破裂音が激しくなる。間髪入れずに内部を刺激され、私も高みに登っていくのが分かった。
「ああ…やばい、出る」
「んっ…はぁっ、あっ、ん、あっ…」
気持ちいいところを徹底的に刺激され、私がイクと同時に彼が最奥へ腰を押し付ける。ドクドクと分かるぐらいに脈打つ彼のソレも、限界だったようだ。腰を少し引いては押し付け、吐き出す余韻を味わうように彼は深くため息をついた。
全て吐き出し終えたのか、再び覆いかぶさってきた彼の体は汗ばんでいて重なった皮膚が冷たい。
「はぁ…はぁ…」
「ん…」
しばらく私たちは体を重ねたまま言葉を交わさなかった。気持ちよかったことと、他人と寝ちゃったなぁということが頭をぐるぐるしていた。なんて言おうかなぁなんて考えていると口火を切ったのは彼だった。
「夏希はどこに住んでるの?」
「ここから新快速乗って二十分かな」
「また、くる?」
これは店に来るか、という事なのか、また家に来るかと聞いているのか、どっちだろう。自分の店を持って二年目と言っていたから、気まぐれでも抱いた女が店に来てくれるようになればラッキーぐらいな感じだろうか。
「店?」
「店がいいの?」
「え?店に来て欲しいんじゃないの?」
「店じゃなくていい。また会いたい」
覆いかぶさられているため彼の表情は伺えない。どういうつもりで言っているのか、全く分からない。セフレなのか、なんなのか…。
「考えとくよ」
私がそう答えると、「期待はしたくないから連絡先は聞かない」と言った。私もそう。期待が裏切られた時が怖いからしない。彼がもしかして私に気があるかもなんて、そんな期待はしない。
別れ際、彼は「またね」と言ったが、それに対して私は「今日はありがとう」と返した。「またね」とは返せなかった。
一週間後、私は彼のバーへ足を運んだ。
Fin.
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