三十路間近な私が年下バーテンダーに心揺れ動く

・作

昔から恋愛体質でない私は2年も彼氏がいない。三十路も間近になり寂しさを紛らわそうと辿り着いたバーで、酔っぱらってくだらないことをする人たちを横目に酒を飲む。そこで出会ったバーテンダー。生まれて初めて見ず知らずの男性に抱かれる気分は…

「ハイボール濃いめで」

 街中がネオンと酔っぱらいでうるさくなった頃、私は一人ジャズミュージックが流れるバーカウンターから横目で楽しそうに騒ぐ人たちをガラス越しに眺めていた。

 いつの時代だよ、と突っ込みたくなるようなネクタイを額に巻きつけたサラリーマンの指にはキラリと光る指輪。

 あんな人にもパートナーは居るのに。

 今年で三十路を迎える私は二年の間彼氏もできず、特に浮いた出来事もない。日々仕事をして休日には友人と出かけたりして、何も不満は無いのだが、どこか寂しさがあるのも事実である。

 特にこの歳になると、「子供が」「旦那が」「彼氏が」と予定の合う子が少なくなってきているのも現実。いつになったらわたしも、そうなれるのだろうか。

 昔から周りの子に比べて恋愛脳を持ち合わせていないことは自覚していた。あの子がカッコいいとか、あの先輩が好きとか、よく分からなかった。

もちろん、そんな私でも今まで交際の経験は人並みにはあって、彼氏とデートしたり旅行に出かけたりすることは好きだった。でも決まってその関係が終わる時は私が振られるときだった。

 二年前に付き合っていた彼は、三年交際していたこともあって周りからはいつ結婚するのかと聞かれていて、私も満更ではなかった。そんな中、急に告げられた別れ。

「俺のこと本当に好き?」

 私と付き合う人には台本があるのかと思うほど、毎回このセリフを投げかけられる。もう何度も経験して分かった事は、この言葉を投げかけられた時点でもう何を言っても修復できないという事だ。

 「好きだよ」と伝えても、「当たり前じゃない」と言っても、「どうだろうね」と突き放してみても、結局お別れという道から逃れることは出来なかった。

 今まで浮気をしたことも、見ず知らずの人と体を重ねたことも一度もない。相手がいる時は一途にその人だけを見てきた。でも相手がいなければ特に人肌が恋しいとか、体を重ねたいという欲求もない。我ながら本当につまんない女だ。

「おかわり?」

 そんな事を考えていると、バーテンダーがグラスを拭きながら空いたグラスを一瞥して訪ねてきた。

 バーテンダーにしては短髪で口には薄い髭。三十代前半といったところだろうか。白シャツに黒のベスト姿というバーテンダーによく見る服装だが、鍛えているのか肩幅はしっかりしていて腰は細く、捲られた袖からスッと伸びた腕は少しだけ浅黒い。

「んー、ウィスキーのロックで」

 こういう所で、可愛い女はどういう酒を頼むのだろうか。そんな事をふと思った。少なくとも、ウィスキーのロックはないだろう。

「飲める女性、いいですね」

 バーテンダーの言葉に、思わず考えていたことを口に出してしまったかと思った。

「え、そうですか?」
「はい、僕がウィスキー好きだからかもしれないですけど」
「ふふふ」
「カルーアミルクとか言われるより、おっと思いますね」

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