私だけの特別マッサージに蕩ける夜 (Page 2)

指圧が右腕から左腕に移ったころ、身体がポカポカしてきた。汗ばむくらい。吐く息も熱い。

「体温上がってきましたね。血行が良くなってる証拠です。冷え性の方とかは凝りで血行が悪くなっている方が多くて。楓さんも足先とか手先とか冷えやすい方じゃないですか?触れた時、脚と手が冷たいのが気になって」

濃やかな気遣い。そっと目に乗せていたタオルを取られ、前髪をよけられる。

「こっち座ってください。座った状態で肩ほぐしていくので」

穏やかに微笑まれる。体があったまって眠くなってくる。そういえば、冷えが酷くて最近寝つきも悪かった。少し目を擦って、ベッドの端に座る。肩甲骨をなぞられて、ゾクリと背筋が震えた。

「少し下着の紐ずらしますね。失礼します」

その言葉と共にTシャツの上からそっと肩ストラップをずらされ、丁度かかっていたところを指圧される。びっくりした、急にそんな事言うから。でも、相変わらず指圧は丁寧で気が緩む。

「肩こりの解消にはストレッチもですが、軽いウォーキングなどで身体を温めた後や入浴中が効果が高いです。運動後のクールダウンでストレッチされる方も多いですね」

「そうなんだぁ。どうしても休日は眠たくて。お昼ごろまで寝ちゃって、そこから溜まった家事をしてたら、一日なんてあっという間で」

気が付いたらもう夕方だったりする。そこからついダラダラしちゃうんだよね、出来れば休日は何もしたくない。でもそういう習慣がいけないのかも。
そんな事をぼんやり考えていると、壁越しに

「ああんっ!」

と嬌声じみた声が聞こえた。びくっとして背筋がシャンとする。

「血行がいいと感じやすくなる方もいて、ここ防音なんですけど聞こえますね。気にしないでください」

朔夜さんは何でもないように笑った。慣れてるんだろうか。私もそんなものかと思おうとしたけど、無視しきれず逆に当てられて気持ちが昂る。

「二時間コースなのでお茶でも飲みますか?水分補給大事ですよ。ミネラルウォーターもありますけど、どっちが…」

「え、あ、ごめんなさい…。ちょっとぼぅっとしちゃって…」

一際大きな声が聞こえ、ぎゅっとTシャツを握る。朔夜さんはにこりと笑い、優しく肩を撫でる。

「楓さんも試してみますか?本当に感度が良くなるか?興味あります?」

耳元で囁かれ、声が媚薬みたいに鼓膜に響く。イランイランの香りが強くした。そういえばイランイランは『クレオパトラの媚薬』。

熱情を含んだ目で見つめられて、断るなんて選択肢あるはずがなかった。

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