小悪魔は可愛い先輩を翻弄する (Page 4)
息も絶え絶えな私はぐったりと椅子に寄りかかる。私とは逆につやつやした翼はウェットティッシュで床を拭いている。準備のいいことで。
「ねえ、何で最近俺の誘い断ってたの?」
「えー、こういう事になるから?土曜日は空いてたと言えば空いてたんだけど、日曜日は従姉の結婚式で受付頼まれてて」
必然的に早目に行くことになった。髪のセットにもメイクにも時間がかかる。慣れないヒールは無理をするとすぐに靴擦れしてしまう。前日に翼の誘いを受けていたら、まず結婚式の受付に間に合う気もしないし、行けるかどうかも怪しい。基礎体力が違いすぎる。
「羽衣は確か、明日から早目の長期休暇でしょ。俺もだけど。用事あるの?」
「…明日、明後日は洗濯して、本でもゆっくり読もうと思ってる」
「用事が特にあるわけではないと…」
まあ、どうしても外せない用事があるわけではないし、洗濯もどうしてもしないとダメなぐらいたまってることもない。ちなみに明日の天気は予報では雨だった。
「今日は俺の家泊まり。はい、決定」
「いくらなんでも横暴過ぎない?」
「全然?俺の家の方が会社から近いし、俺の支えなしに帰れるんなら話は別だけど。お腹空いたし、早いところ家帰って出前とか頼もうかなぁみたいな」
淡々とそんなことをいいながら、跡が残っていないか手首を取って確認し、途中で外れた靴の留め具を留め直してくれた。偶に、ネクタイを締めているときに限り、翼は割と現実的な事を言う事がある。
「拒否権ない…」
「意味ない事したくないしー。てか、2週間分羽衣を摂取しないと死ぬ。出来れば15日分ぐらい摂取しておきたいしー」
「それは、無理、死んじゃう」
「別に1日とは言ってないじゃん。今日は俺の家、明日の夕方からは羽衣の家ー」
確かにいきなり2日も家を空けるのは嫌だけど。夕方からというところにゾッとする。
明日の惨状を思って眩暈がした。軽く額を押さえる私を見て、翼はにこりと笑った。
Fin.
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