さよならは言わない
“先生”は私の初恋の人で、初めての相手だった。しかし二人の関係は私の両親によって引き裂かれてしまい、関係は私の教育実習が終わるまでという約束になった。実習最終日、この恋ともさようならの日。私はせめて最後の思い出に、自分の中に入れてほしいとお願いをする。
ひらりひらりと桜が散っていた。満開の桃色の花びらが、校庭を染めている。
「教育実習も終わりかぁ」
私は一人ぽつりとつぶやいて、ぼんやりと窓の外を眺めた。
先生との教育実習の思い出を思い返しながら。
*****
「桜田 栄といいます。君の教育実習の担当教師です、よろしくね」
桜田先生とは数年前、先生が当時私の通っていた学校の生物教師になったばかりのころに出会った。私と歳も近くて、先生初心者マークと言って笑っていたことをよく覚えている。
ちょっとドジなところもあって、歳も近いことから生徒からはお兄ちゃんみたいな扱いを受けていた。
私は、親しまれるような教師になりたかったこともあり、採用試験の勉強などを見てもらっていた。
「お、得点アップしてるね」
「先生にしっかり教わってますからね」
「嬉しいこと言ってくれるね?」
「私、両親が教師で大学1年生から受験に備えて勉強するようにって言われてきたんです」
私の両親は厳しい人たちで、とにかくしっかり勉強しなさいと子供の頃から、私に言うばかりだった。
そんな両親たちに叱られないように、勉強をするしか私にはなかった。
私は寂しかったんだ。
「えらいなぁ」
先生はそう言って、私の頭をやさしくなでてくれた。
それが私自身の先生への恋心の始まりだった。
*****
この思いを伝えたのは実習の中頃だった。
女子の間では先生たちにふざけてチョコを渡すイベントのようなものがあったので、私は生徒に半分茶化されたこともあり、先生にチョコを渡すことになった。
「先生、…好きです。私、本気です」
先生は困ったように笑った。教師と実習生の関係なんて、問題だからだ。
「両親はいつもいなくて、それなのに私に指示ばっかりで。優しく頭をなでてくれた、先生のことが、好きになっちゃった」
親のことを思い出して、涙があふれだしてきた。
先生は何も言わずにそんな私をやさしく抱きしめてくれた。
それが私と先生の関係の始まりだった。
*****
しかし、そんな関係も間もなく教師の親にばれてしまった。
「淫らな真似を実習生にするような教師は晒し上げてやる。嫌なら実習が終わったらもう二度と会うな」
そう言われた。
だから、今日がお別れの日だった。
「先生」
「ああ、よく来てくれたね」
先生と会うときはいつもこの準備室だった。
「実習が無事に終わってよかった」
私は無言で先生に抱き着いた。
「いやだ、もう会えないだなんて。やだよ」
先生は悲しそうに微笑んだ。
「先生、一つだけお願いしていいかな」
私は服を脱いで、ありのままの姿になって先生に言った。
「滅茶苦茶にしてほしい」
先生は表情を変えなかった。
けれど、私のありのままの姿をそっと抱きしめてくれた。
禁断の愛好き!
二人のすれ違いの描写にはとてもどきどきしちゃいましたね。先生が好きになる気持ち、とてもわかります!
うう さん 2021年9月27日